Brionglóid

愛しの君に剣の誓いを

愛しの君に剣の誓いを

03

「へ……?」
 何が何やら、さっぱり状況が飲み込めずに少女は呆然と二つの騎影を見送っていた。

「心配しなくていいよ。ああ見えて、うちの兄貴達って結構強いから」
 残されたラスティはそう言って、さっき小川で汲んで来たばかりの清水の入った水筒を差し出した。

 必死に馬を駆ってここまで逃げてきた少女は、そこでひどく喉が渇いていることに気がついたようだった。
「あ、有り難う……」
 蚊の鳴くような声でお礼を言い、おずおずと水筒に口をつけると、あとは勢いがついたように水を飲みだし、あっという間に少女は水筒を空にしてしまっていた。

 ラスティはそれに関して何も言わず、少女の傍で黙々と馬の世話をしていた。人心地ついた少女は、残ったラスティが自分と同年代くらいだとわかったのだろう。さっきのウェインに対するような態度ではなく、いくらか親しげに声をかけてきた。
「あの……あなたのお名前、聞いてもいいかしら。私はローザというの」

 振り向いたラスティは、ちょっと目を丸くした後、にっこりと笑った。
「僕はラス。君は……ローザ、様?」
「ローザでいいわ」

 一応、身に着けた装飾品や少女の立ち振る舞いから、きっと身分の高い姫君なのだろうと思ってラスティはそう言ったのだが、少女は恥ずかしそうに頬を染めて訂正した。

 こうして間近で見ると、少女は本当に可愛かった。
 ウェインと話している時は、つい売り言葉に買い言葉でああいう喧嘩腰な態度を取ってしまっただけで、実際は普通の女の子なのかもしれないとラスティは思った。長兄はいつもあんな感じなので、思わずムキになってしまう人間も少なくない。

「ラス達は、兄弟で旅をしているの?」
「うん。騎士としての腕を磨くため……って表向きはそうなってるんだけど、僕以外は本当は修行の必要なんかないんだ。クレア兄さんなんか、ああ見えてかなり過保護でね。僕に付き合ってくれてるだけ」
「クレア?」
「黒い髪のほう。金髪のが一番上の兄貴で、ウェイン」
「ふうん……」

 と、ローザは木立の向こうで乱闘を繰り広げている二人の若い騎士に目を向けた。
「……お兄さん達、強いのね……」
 何気なく、ローザが呟いた。第一印象が最悪だったとはいえ、兄二人の実力はその戦いぶりを実際目にした以上、認めざるを得ないのだろう。

「僕もそう思うよ。兄さん達ほど強くて格好いい騎士は、他に知らない」
 ちょっとだけ自慢げに、ラスティはそう言った。

 本人達の前では言えないが、それは紛れもなくラスティの本心だった。歳の離れたラスティにとって、彼らは第二の育て親であり師匠であった。兄達のような騎士になりたいと、常々そう思っているから旅の雑用だって苦もなくこなせるというものだ。旅の同行を許してもらっただけで充分だった。

 ローザはしばらくじっと二人の若い騎士の戦いを見つめていたが、やがて、また小さく呟くように言った。
「報酬を払えば、別の仕事を頼むことも出来るのかしら」
「え……」

 ラスティは思わず少女の方を見た。ローザの顔は真剣そのものだった。
 まあ、修行とはいえ路銀を稼ぐ為にはこれまでも傭兵じみたこともしてきたし、さっきの羽振りの良さであれば、まず長兄のウェインは首を縦に振るだろうけれど。

「僕の独断では決められないけど……場合によっては兄さん達も引き受けるかもしれないよ?」
 そうラスティが促すと、ローザはちょっと思いつめたような表情で振り返り、「実は……」と切り出した。